2009年4月25日土曜日

老後の楽しみ

多分20年くらい以前、仕事で雑誌の編集に関係していた頃、「年末年始のお勧め読書」のような特集を組んだ事があった。各界の著名人がそれぞれコレという本を推薦するというものだが、その中で当時経済評論家として一世を風靡していた長谷川慶太郎氏が推薦していたのが『海の男/ホーンブロワー・シリーズ』だった。

このシリーズは別巻まで入れると文庫(ハヤカワ)で12巻に亘る一種の大河小説だ。ヨーロッパではナポレオン時代のイギリス海軍(もちろん帆船時代)、17歳で士官候補生として海軍に入り最後には提督にまで登りつめる男の物語だ。日本人で鞍馬天狗を知らない人はいない(現在ではそうとも言えないが)ように、イギリス人でホーンブロワーを知らない人はいないと言われるくらいの国民文学だそうで、かのチャーチル首相も座右において愛読したといわれている…、というような推薦文が書いてあった。

当時、数多い経済評論家の中で技術や軍事に詳しい事で密かに注目し、かなり親しくしていただいて方の、それも、へえーと思わせる意外な推薦書だったので、即、全巻購入して、アッという間に読破してしまった。

もう夢中になってしまった、と言っていいだろう。私自身、多少はヨットや海軍に対する知識があったものの、こんなに面白い小説分野があったのかと初めて知らされた思いだった。

それ以来

海の勇士/ボライソー・シリーズ』(27巻既刊)、『英国海軍の雄/ジャック・オーブリー・シリーズ』(20冊既刊)、『海の暴れん坊/オークショット』(現4巻・途中終了)『アラン、海を行く・シリーズ』(現7巻・途中終了)

さらには古本で

海軍将校リチャード・デランシー・シリーズ』(全6巻)、『ラミジ艦長物語』(全23巻)等を買い集めそれこそ夢中で読んだ。

このようにかなり多くの「帆船小説」は出版されてはいるのだが未了のまま終わってしまうものも数多くあるのが実情だった。

そんな中比較的新しいシリーズとして『海の覇者/トマス・キッド・シリーズ』が出たのだが5巻まで出版されてから、「終了」の噂がたった。事実続編は中々出なかった。これは寂しい事だと嘆いていたところ、「続編を望む声をハヤカワヘ送ろう」と呼びかけるサイトに出会い、及ばずながら私もそんなメールをハヤカワへ送ったりもした。その効果があったのか、しばらくして6巻がやっと出て、昨日、写真の第7巻「新艦長、孤高の海路」が発売されたのだ。

本シリーズは、英国・ギルフォードの町でかつら職人として働いていた男が強制徴募(詳細は省く)されて下級水兵になり、それこそ艱難辛苦を乗り越えて(古臭い表現でゴメン)士官となり、艦長になり(それが本書)、そして多分これから、提督にまでなっていくと言う流れだ。

この「強制徴募された下級水兵から」というのが本書の特徴で、既刊の書と比べて面白さを加えている。ただ残念なことは、「文学的魅力」「技術や戦術のディテイル」では、先輩諸氏の著作より浅いきらいがあるが、これからが楽しみなシリーズだし、何より数少ない「帆船小説」なのだから、期待する事大なのだ。

昨日は最初に入った書店で、店員さんが一発で本書を見つけてくれた時は、「さすがですねえ」と賛辞を贈ってしまったほど嬉しかった。

どうか私の「老後の楽しみ」を奪わないで続編を出版していただき、未完のものは、きっちり終わらせていただき、未訳の作品があればどんどん紹介して欲しいものだと願って止まない。

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